うつつのよすが



「アルヴィンなんてきらい」


 それは、今日がエイプリルフールという『嘘をついてもいい日』なので、何気なく呟いただけなのだ。
きっとそう言っても苦笑いで、いつものように抱きしめ返してくれるだろう、と思っていた。

 ジュードにとって、アルヴィンと言う人物は絶対的に甘えていい存在と認識していたが、アルヴィンにとっても、ジュードは絶対的に甘えてもいい存在だ。
 ただ、お互いそう思いつつも、相手も同じだと気づいてない上、いつも他人に拒絶されてばかりだったので、上手い甘え方が分からない。
 だから、たまに言葉の、行動のやりとりにすれ違いが起きてしまう。
 今日のこれも、そんなすれ違いの一つだった。

「・・・・・・そう、か。そうだよな。・・・・・・悪い、今まで無理させてたんだな」

 今まさにジュードに触れようとしていた手が、びくりと震えて地に落ちる。
わずかな逡巡の後、くるりと背を向けて部屋から出て行こうとするアルヴィンに、ようやくジュードは己がとんでもない間違いをしでかした事に気づく。
 馬鹿だ。大馬鹿すぎる。自分の迂闊さ加減に頭を抱えたくなる。
いくらエイプリルフールだからって、アルヴィンに『嘘』だけは絶対ついてはいけなかった。
 たった6歳で両親を亡くしてから、様々な嘘や裏切りにあった青年。
自業自得と本人はうそぶいていたけど、彼の過去を知ってしまってからは、そんな言葉で片付けるにはあまりにも哀れで、悲しかった。
それ以来だ。真綿に包み込むように、この青年を愛おしんであげたいと思うようになったのは。弟代わりでも、母親代わりでも構わない。
傍にいて、寄り添ってくれるだけでも満足していたのに、アルヴィンはジュードにそれ以上のものを与えてくれた。
 それは、嫉妬だったり、執着だったりと決して綺麗なものばかりではなかったけど。

「・・・・・・ごめん! ごめん、アルヴィン! 嘘だから!」

 慌てて逃げる背中にしがみ付く。傍から見たらさぞかし間抜けに見えるに違いなかったが、そんな些細な事は気にしていられない。
とにもかくにもこの青年の誤解を解こうと、ジュードは必死に言葉を綴った。

「エイプリルフール! アルヴィンなら気づいてくれると思って、つい言っちゃったの!」
「嘘・・・・・・?」
「全部嘘! ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・絶対に言っちゃいけない事だった・・・・・・」
「でも・・・・・・、ついって事は心の奥で思っていた事なんじゃないか?」
「違う! そんな事思ってないよ! 僕、は・・・・・・!」


言葉だけじゃ、伝えたい事がちっとも伝わらなくてもどかしい。

ジュードは精一杯背伸びをして、アルヴィンの肩に腕を伸ばす。

振り返るアルヴィン。


 口を合わせる前に吐息だけで「すき」と言ったのが伝わっていればいいと願いながら、向かい合う形になった青年にジュードは噛み付くようにキスをした





twitterの診断で遊んだBL言葉なるものが、私のアルジュは『手を繋ぐことすら怖い』らしいですww笑った。
両思いなのに両片思いなアルジュっていいですね。言葉だけじゃ足りないから、この子たちはちゅっちゅしてればいいと思います。
可愛いです。 2013/04up