舞い落ちた花の名は



「アクセル、貴方から見たレモンってどんな女性だった?」

 そう問いかけてきたのは、蜂蜜色の金髪を高い位置で結い上げている女性――エクセレン・ブロウニング。
ある意味ではこちらの世界でのレモン・ブロウニングである。
「何が聞きたい?」
「・・・・・・ごめんなさい。気を悪くさせたい訳じゃないの」
 アクセルにとって、レモンと言う存在は特別で。
 口ではなんでもない風を装っていたのだが、少々不機嫌になったのは彼女には筒抜けらしい。
「いや・・・・・・すまん。怒っている訳じゃない」
 精神を落ち着かせるために一呼吸を置く。
「ただ・・・なぜそれを俺に聞く?」
 もう一呼吸。
「レモンの事ならラミアに聞けばいいだろう?」
 精神統一は完了。後は情報をアウトプットするだけだ。
「それが・・・当のラミアちゃんが、レモンの事を知りたいならアクセルに聞いてくれって」
「俺よりもあいつの方が付き合いは深いんだがな」
「ううん。ラミアちゃんは”科学者”と”母”としてのレモンの事は教えられるけど、”女”としてのレモンは自分ではわからないので、アクセルに聞いてくれって言ったの」
 大体想定内の問いではあったが、アクセル自身、未だにレモンへの感情を断言する事ができない。
 ただ、何故かはわからないがその複雑な思いをエクセレンに素直に言うのは憚られたため、アクセルは以前レモンが言っていた言葉を借りてエクセレンの問いに答える事にした。
「そう、か・・・・・・そうだな、椿、だな。アイツは」
「つば・・・・・・き?」
「ああ、そうだ。冬の最中に咲くような赤い椿。逆境にもまけずに凛としているが、役目を終えたらあっさりと花弁ごと散るような・・・そんな女だったよ」
 これは、本当はレモンがアクセルに対して言った言葉だ。それはお前の方に当てはまるだろう。
そう言ったら、彼女は曖昧に微笑むだけで何も答えてはくれなかった。  俺が椿とは何を馬鹿なと思ったものだが、今思うと彼女は自分達シャドウミラーの末路を薄々悟っていたのではないかと思う節がある。
 そう思いたくはない。でも、そう考えれば考えるほど言葉を交わした時のレモンの表情を鮮明に思い出してしまい、
せっかく施したはずの精神統一も形無しになっていくのを自覚せざるをえなかった。

「・・・・・・ありがとう、アクセル」

 ぽつり、と呟きと共に手に落ちた雫に、はっとしてアクセルは顔をエクセレンへと向ける。
「・・・・・・エクセレン・・・・・・ブロウニング・・・・・・?」
「・・・・・・ごめんなさい。貴方が・・・・・・貴方のレモンへの想いで・・・・・・レモンの遺した言葉が・・・・・・」
「レモンの、遺した言葉・・・・・・だと?」
 彼女は何と遺したのだろう。
 俺からは中途半端な感情しかあげてやれなかったのに、彼女は最期の時まで自分へ心を残してくれていた。それが嬉しくないわけが無い。
 だが、今から彼女へできる事など何も無い。だからせめて、彼女の最期の言葉だけでも知りたかった。

「・・・・・・遺した言葉は教えないわ。貴方はもう答えを出しているもの」
「な、んだと・・・」

 訳がわからない。俺はどのように答えを出したと言うのだろう。
 そうエクセレンに問い返したが、彼女はゆるく頭を振るのみで、あの時のレモンと同じく曖昧に微笑むだけであった。






赤椿―――『控え目な愛』





twitterの質問で花で小話と言われて思いついたのが、レモンさまは赤椿だなー、ってなんとなく思って花言葉調べたらアクレモじゃないかー!
って勢いだけでやってしまった代物です。

2013/01up