エルとアーク



「全く・・・・。何を考えているんだ?君は・・・・」
 呆れてものが言えなくなる、というのはこのような状態のことを言うのだろうか?
 本来、彼はそうそう感情を表に出して誰それに説教・・・などという行為を行う人間ではないのだ。
だが、今回ばかりは説教のひとつ位したくもなる。

 彼―――・・・エルリッヒ・フォン・シュターゼンは、重い重い溜息をひとつついてから言葉を続ける。

「あの場合、我々はショウやデュオ達のバックアップに回るべきだろう?」
「それは―――そうなんだけどさ・・・・」
「それを一緒にフォワードに回るだなんて・・・・」
「でも・・・・あの2人押され気味だったし・・・・」
「では、聞くが・・・・・」
「今、我々は何処にいる?」
 その瞬間、周りの空気が凍りつく。
いや、実際にはそんなことはないのだが
エルリッヒと対峙している少年―――アークには、部屋の温度が一気に10℃位低下したように思われた。
「あー・・・・医務室・・・・・かな?」
「そうだ」
「でも・・・・他には被害がなかったんだし・・・・」
「だからと言って、少年が負傷してもいい。・・・・という訳ではないだろう!」
 とうとう我慢の限界を超えたエルリッヒが、声を荒げる。
その怒声にアークは首を竦めるしかできない。負傷したことは事実なのだ。
出撃はともかく、機体の調整となるとエルリッヒの手を借りねばどうにもならない。
何せ、彼らの乗っているADはやっかいなものなのだ。
従来のMSや特機とは違い、微細な調整が必要となってくる。
この後の機体の調整(と、言うより共に調整するハメになるであろうエルリッヒの説教が)の事を思うと溜息の一つもつきたいところだが、こればかりは諦めるしかないだろう。
「確かに・・・・今回はうかつだったさ」
「全くだ」
「アンタにも一応迷惑をかけたみたいだし・・・・・・」
「一応ではなく、正真正銘被害は被っているぞ」
「この後の調整もアンタに任せる事になるのも悪いとは思ってるさ・・・」
「まぁ、少年はしばらく安静にしないといけないからそういう事になるな」
「で、でも・・・・・・」
「まだ何か言い足りない事があるのか?」
 先だってよりは大分落ち着いてきたものの、今度は取り付く島もないエルリッヒの反応にアークはほんの少しだけ躊躇する。
・・・・・・が、無謀に突出したわけではない事をこの堅物に理解して欲しくて、ためらいつつも続きを口にした。
「アンタが・・・・・・! アンタと一緒なら絶対に大丈夫な自信はあったんだ」
「―――!」
「アンタいつも俺の事さりげなくフォローしてくれているだろ? だからさ、今回は前線が押され気味とは言えショウやデュオ達もいたし、アンタが側にいる事も解ってたから多少俺が突出しても大事には至らないって思ったんだ」
「それに・・・・・・」

「・・・・・・もういい」

 はー・・・・・・、と長い長い溜息をつきながらエルリッヒはアークの言葉を遮った。
それと同時にエルリッヒは手のひらで自身の顔を覆ってしまったので、アークには彼がまだ怒っているのか、はたまた呆れ返っているのかは窺い知れない。
多分、怒ってはいない・・・・・・と思われる。が、平素の彼は感情を曝け出すような振る舞いを一切しないので、まだまだ若いアークにとっては表情が伺えない上、黙りきってしまわれるとどう反応を返せばよいのかわからない。
 長い長い沈黙の時間の後、ようやくエルリッヒが口を開いた。
「・・・・・・とりあえず、今日の機体調整は私がやっておく」
「はい・・・・・・」
 この事に関してはどうしようもないので、アークは素直に頷いた。
 そして、次の言葉。
「明日も無理をしないで、そのまま安静にしてなさい」
「えっ・・・・・・? で、でもそれじゃアンタの負担が・・・・・・」
 次に出てきた内容が、思いもよらない事でアークは動揺を隠せない。
「それ位はたいした負担ではない」
「でも」
 流石にそこまで迷惑をかけられない。明日は多少無理をしてでも通常シフトに戻ろうとしていたアークはやんわりとエルリッヒの申し出を断ろうとする。
「アーク」
 普段自分の事を”少年”としか呼ばないエルリッヒが突然名前で呼んだため、アークは思わず言葉を止めてしまった。
「私はもうこれ以上誰も亡くしたくはない。―――大切なものは何一つ」
 そう言ったエルリッヒはどこか自嘲を含んでいた。
 以前の自分だったら反発していただろう。
 でも、今日のエルリッヒは自嘲だけではない”何か”が感じ取られ、アークはこれ以上何も言えなくなってしまった。
「とにかく――今日明日はゆっくり休んで怪我を治しなさい」
 つい、とまるで慈しむかのようにアークの頭をひと撫でした後、エルリッヒはすぐに医務室を後にした。





*******





「―――――何て事を言ってくれるんだ、あの少年は・・・・・・」
 緩んでしまう頬をアークに気づかれるのが気恥ずかしくて、そそくさと医務室を後にしてしまった。

―――絶対に大丈夫な自信

 そんな大層な信頼を置いてもらえるほどエルリッヒはたいした存在じゃない。
と、彼自身はそう考えている。
変なところで意地っ張りなところのあるアークだからそれとなくフォローしていたのだが、それもしっかりばれていたところも気恥ずかしくてたまらなかった。
ただ、不思議と悪い気はしない。しないどころかますますあの少年から目が離せなくなっている。
 これは何だ?
 友人や彼の婚約者に対してのとは全く趣の異なる感情だった。
勿論、上司や部下、同僚とのそれでもない。
そうして考えていくとある意味恐ろしい結論に到るわけだが、それだけは決して抱いてはいけない感情だったが故、その思いを振り払うがべく己の本来のこれからやるべき仕事について無理やり思考を切り替えていった。





―――――これは恋か?





エルとアークで本気でリリカルBL風味なお話でした。
もうなんつーか大好きな2人なので(コンビでもCPでも)ゴメンなさい;;
実は途中まで書いてたのを無理やり完成させたら全然違うオチになってあれ?ってなってます
64面子もOGで参戦してほっしいなぁ!!!夢のまた夢ですが!版権(?)の壁が憎い・・・・・・
2009/11up