エルとブリット



ドカン!


と、ペ(略)カムチャッキー基地のトレーニングルームに大きな音が響きわたった。
 シュミレーションマシンとは言え、完全防音とはいかない。内部での戦闘の音は半分以上だだもれだったりする。今もまさに、マシンを使用していた者が、虚しく撃墜される音が部屋の中に響き渡る。

 幾ばくかの時間が過ぎた後、マシンの中から出てきた人物が一人。

「は〜、やっぱり今回も駄目か・・・・・・」

 溜息をつきながら一人ごちるのは、向日葵みたいな金色の髪の少年―――ブリットだ。
 元々人の少ない基地ではあるが、更に人が少なくなる時間帯を狙っての密かな訓練である。
 訓練とは言え、毎回毎回極僅かな時間で連敗する己を、恋人のクスハに見られるのはブリットのプライドが許さない。
 その上、使っているデータも本来訓練では使われていないものなので、上にばれたりすると色々面倒なことになるので、深夜にひっそりと使用している―――と、言う訳だ。

「弾幕に気をとられていると、接近されて一気に・・・・・・だもんなぁ・・・・・・付け入る隙を見つけないと・・・・・・」
「―――驚いたな」

 不意に背後から聞こえてきた声に、ブリットは慌てて振り向いた。
 何時の間にかこの部屋に入ってきていたのは、ブリットと同じように金色の髪をした青年だ。名をエルリッヒ・シュターゼン。
 先日、ペ(略)カムチャッキー基地に配属されてきた新入りメンバーである。
新入り、と名目上はなっているがその実は元DCの凄腕パイロット、通称「ブロックブレイカー」と畏怖されていた人物だ。    
設備の無断使用に私物データ使用・・・・・・と色々とがめられる要素は満載なので、ブリットは内心ヒヤヒヤだ。

「シュターゼン中尉!」
「・・・・・・エルリッヒでいい」

 思わず敬礼の姿勢で受け答えしてしまうブリットに、エルリッヒは苦笑いを返しながらそう言った。咎める気はないらしい。
 その様子にホッとしながらも、ブリットは警戒を解くことができない。

 早い話が、「苦手な相手」なのである。

 どことなく、ブリットの最大のライバル(?)のユウキに似た雰囲気をもつエルリッヒは、性格までもそっくりなのではないかと思えてしまうのだ。
 
「そんなに警戒しなくていい。咎めたりも、上に報告もしないから。
ただ・・・今君が使用していたデータが少々・・・・・・いや、大分懐かしいものだったので驚いてしまってな。
急に声をかけて驚かせてしまったようですまない」
「・・・・・・え? でも、今俺が使っていたデータって最近のものなんですが・・・・・・」

「キョウスケのデータだろ?」
「そ、そうですけど・・・・・・」

 誰のデータかずばりと当てられたのも驚きだが、それ以上に「キョウスケ」と、ファーストネームで自身の上司の事を呼んだ事にブリットは驚きを隠せなかった。

「・・・・・・あ、あの・・・・・・シュ・・・・エルリッヒ中尉はキョウスケ中尉と昔からの知り合い・・・・・・? ですか?」
 思わず問い返してしまうブリット。
「・・・・・・学生時代の友人だ」
「ええええっ!? そそそ、そうだったんですか?!」
 驚きなんてものじゃない。どう考えても仲良くなる要素など欠片も見出せない2人に思われるんですが・・・・・・。
「・・・・・・いかにも気が合わなさそうに見えたか?」
「ぅえっ!? は・・・・・・そ、そうですね・・・・・・どちらかというと合わなさ・・・・・・っっ、すみません! 失礼な事を言いました!!」
 思わず本音が出てしまうブリットに、気分を悪くした風でもなくエルリッヒは言葉を続ける。
「気にするな。今まで散々言われつづけてきた事だ。
 そうだな・・・・・・最初は君のように私もキョウスケとは”合わない”人種だと思っていたんだけどな・・・・・・。PT操縦技術は一流。だけど単機突撃の気もある。」
「はぁ・・・・・・」
「単に突撃バカなら他人にやっかまれる事もなかっただろうに、なまじ戦術、戦略、戦況まで見通す頭もある。故に、無能な上司の作戦を無視して単機で突撃して勝利。・・・・・・なんてこともしばしばあったな。それだけでも問題大有りなのに、愛想振り撒いてうまく馬鹿どもをかわすような対人的な器用さはほぼ皆無―――まぁ、同姓や一部の上司にはとことん嫌われる人間だろうな。キョウスケは」
「な・・・・・・っっ!! キョウスケ中尉は!!」
 あまりにもひどい言い様に反論しようとしたブリットだが、その反論を半ばふさぐようにエルリッヒは更に言葉を続けた。
「―――――でも、本当のアイツは他人を傷つけるのを是としない優しい人間なんだよ。
―――人間が大好きだから、他の人間が傷つくくらいなら自身の身を呈してでも守るし、それが当然の事だと思い込んでいるのさ。
・・・・・・まぁ、少々本人の趣味も昂じて傍から見てるととんでもない大馬鹿のようにも見えるがな」

 そう言ったエルリッヒの口調は、普段通りのそっけないものではあった―――が、逆にそのそっけなさがこの青年が真に自身の上司の事を信頼している事の証でもあるかの様だ。
 
「・・・・・・エルリッヒ中尉は、キョウスケ中尉の事をとても大切に思っていられるのですね・・・・・・」
 どことなく悔しそうに呟くブリット。
「大切という言葉は少々大げさだが。・・・・・・そうだな、私にとってはこの上ない友人を得られたと思っているよ」
失笑を抑えつつもエルリッヒはそうこたえた。





*****





「良かったわね〜キョウスケv」
「・・・・・・何の事だ」
「またまた照れちゃって〜。エルちゃんってば、キョウスケの事大好きなんですって!」
「・・・・・・そうは言っていなかったが?」
「んもう! 言ってたじゃない! ”この上ない友人”って!! それってつまり大好きってことでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らんな」
 そのまま踵を返して持ち場に戻ろうとするキョウスケ。




 その後姿が、何時にもなく嬉しそうな事にエクセレンも幸せに思いながら恋人を追いかけるべくその場を後にした。




ブリットはエルのこと最初は苦手だろうなぁ、とか思って。
なんて謎な組み合わせ・・・・・・。
パラレルな設定ですねぇ
簡単に説明。
64→本編数年後がAで、エルリッヒはキョウスケの士官学校時代の同期で親友同士。
って前提で読んでいただけると。
2009/11up