帰路にて



新幹線というものは、
乗りなれてしまえば
以外に、物思いに耽るには最適の場所だったり。





でも、僕はあいつのピアノが
すごく好きなんですよ―――――


自分でも意外な位、自然にその言葉が出てきたので驚いている。
”好き”だなんて言葉は、以前付き合ってた女にだって、数えるくらいしか言った事が無い。
言う事が義務とさえ思っていたぐらいだ。


それなのに・・・。
なぜか、アイツに対しては自然にその言葉が口に出せた。


――――――アイツに?


いや、好きだといったのはアイツのピアノに対してだろ?
・・・・・・・・なんだ?何でこんなに落ち着かないんだ??


”アイツのピアノ”と”アイツ”
たいした違いはないじゃないか。



隣の席で眠りこけているのだめに視線を移す。
・・・・・相変わらずのまぬけ顔で眠っている。ぷりごろ太だとか、カズオだとかの寝言を言っているのも微かに聞こえる。



いつもと何一つ変わらない。



あ、意外とまつげ長いな。
髪の毛も、手入れしてればやわらかくてさらさらだしな。
華奢な割には
意外と胸ある?こいつ



・・・・・・何でじっくり観察してるんだよ、俺は・・・。



これじゃあ重症じゃないか。


――――重症?


「重症ってなんだよ・・・」
自分の言葉に呆然としてしまう。どうしてこんな言葉が出てくるのか?
その訳は―――?何故?



「―――――ん」
横でのだめが、身じろぎをする。


・・・まずい。これ以上考え事をしていると、余計な独り言で起こしてしまいそうだ。
俺も、少し眠ってすっきりした方がいいのかもしれないな。
このままだと、混乱するばかりだし。


とりあえず、自分の上着をのだめの膝にかけてやる。
その時、
不意にまた、のだめの寝言。



「―――――千秋・・・・先輩」



――――――――――――心臓が止まるかと思った。



・・・・・名前を呼ばれただけなのに。
・・・・・ただの寝言なのに。



”名前”を呼ぶことが、こんなにも愛しい事だといわんばかりの顔。



それは、初めて見る”野田 恵”と言う、一人の女の子だった。



何で、名前を呼ぶだけで、そんな顔ができるんだ?
名前なんて、ただの固有名詞じゃないのか?
どうして、名前を呼ばれただけなのに、
俺は、こんなにも落ち着きない気持ちになるんだ?



―――どうして?



もう、なにが何だかわからなくなってきた。
こんな想いは、知らない。


「何だよ・・・・・・・・一体・・・」



―――――――知らない。










くっつく前の微妙な関係の2人ってシチュは大好物です。
10/01up(初出04/11)