殿と佐助とゆきくん



「うぅぅぉぉぉやぁかたさまぁぁぁ!!」
「みなぎるぅぁあああぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
 今日も戦場に轟き渡る旦那の声。
「あー、今日も平和な(?)戦日和だねぇ・・・」
「何だそれは? ・・・しかし猿飛、本来は先陣を勤めるのはお前の役目ではないのか?」
 俺様の独り言に横槍を入れるのは、一見女性と見間違うほどに整った顔立ちをした男である。
うん、それは本っ当に間違いのない事実。実際に触って確かめたら、竜の右目の旦那ばりかそれ以上に恐ろしい形相をした傷のおっさんと、
旦那の未来はこうだと良いな、と思わせるような赤装束の見た目だけは好青年(中身は絶対似て欲しくない)だとか、変な札持った気概気概うるさい旦那だとか、
伊達軍の下っ端にいそうなリーゼントだとか、唯一まともそうに見えたけど実は1番俺様命の危険を感じた白髪の兄ちゃんに追い回されたりとえらい目にあったので、もうこのキレイな旦那をからかうのは一切やめると誓っている。
 当の旦那はけろっとしていたけど。周りが非常にめんどくさいんだよなぁ、この人。
「あー、そうなんだけどさぁ。うちの旦那、俺様が頑張って露払いしてもその先を突っ走っちゃっていくんだもん。なら俺様無理していかなくてもいいかなー?なんて。楽もできるし」
「でも、それでは幸村が危ないではないか」
「大丈夫、だいじょーぶ。そこはほら、こんな風に・・・っと!」
 そう会話しながら、俺様は旦那の後背を狙っていた下っ端兵士を吹っ飛ばす。
・・・・・・その中に、竜の旦那がいたような気がするけど気のせいだと思い込んでおく。


「佐助ぇ! サボってるんじゃないぞっ!!」
「サボってないですよー、旦那。こうして旦那の後背守りつつ、石田の旦那も護衛してるでしょー?」
「!!? 石田殿っ! け、怪我は? 怪我はござらんか!?」
 石田の旦那の名前出した途端、すっとんでこちらに来る旦那が可笑しくてたまらない。
あーあ、美人に免疫ないくせに健気にがんばるねぇ、うちの旦那も。
「怪我はないぞ、幸村。だが、それよりお前の方が突出しすぎて心配だ。あまり俺達から離れるな」
「ですが、それだと石田殿に危険が・・・」
「なにが危険な事がある? 俺は守られるような姫などではないし、お前の懐刀の佐助も傍にいる」
「万が一・・・」
「それに」
 不安そうなうちの旦那の言をさえぎるように、石田の旦那は言葉を続ける。
「日の本一と誉れの高いお前も傍にいるのだ。何も恐れる事などないだろう?」
あー、あー、石田の旦那。それ、うちの旦那には殺し文句ですって。しかもアンタの微笑み付きって!
旦那本当に昇天しちまいますから!
「っっっ・・・!!! ははははははははい!! 不肖ながら、真田源次郎幸村! 命を賭けて石田殿をお守り申す!!」
「いや、だから命を懸けるなと言っているのだが・・・」
「うぉぉぉぉぉ!! 我こそわぁぁぁぁ!!」
 そう叫びながら、案の定突撃して行ったうちの旦那。


「・・・・・・なあ、猿飛。俺は幸村に嫌われているのであろうか?」


・・・・・・なぜそうなる。
石田の旦那のずれすぎた言葉に、俺様は力なくかぶりをかえす事しかできなかった。






 後日、アンタにゃ負けねえ!と、石田の旦那に詰め寄ってきた竜の旦那が、幸村の旦那(うちの旦那じゃない方ね、コレ)にブッ飛ばされていたのはまた別の話。







佐助は苦労性
2010/07/10up